今の俺は車を選ぶ時にはかなり現実的である。
実用一点主義と言ってもいい。
壊れないこと。
雪道を安心して走れること。
通勤で無事に出勤できて、仕事が終われば無事に帰宅できること。
そしてローンを組んで買うのであれば、払った金額に見合った利便性を享受したい。
今なら、まず間違いなくそう考える。
でも、若かりし頃の俺は違った。
人と同じ車に乗るのが面白くなかった。
人とは違う車を選ぶことに、ちょっとした誇りもあった。
そんな頃の俺が中古で買ったのが、シトロエン・エグザンティアだった。
https://www.citroenorigins.jp/ja/cars/xantia
写真が残っていないので公式サイトのリンクを置きます。
もちろん中古である。
新車なんてとんでもない(笑)。
今になって思えば、就職にもあぶれて夜間バイトで食いつないでいた人間が、なぜエグザンティアなんて買ったのか。
我ながらよく分からない(笑)。
センスは先頭集団(のつもり)。
物欲も先頭集団(これは恐らく間違いない)。
しかし財布は追いついて来なかった。
いや、追いついて来なかったどころか、周回遅れですらあった。
人とは違う車に乗りたかった
当時の俺は、とにかく人とは違う車に憧れていた。
免許を取って初めてのマイカーは、親父から借りた71マークIIグランデのツインカムターボ。
これは速かった。
そして燃費は極悪だった(笑)。
その後、初めて自分で選んだマイカーはオペル・アストラの5速MT。
ローギアードすぎて、発進加速が悪かったことを覚えている。
あと、クラッチが超重かった…。
強化クラッチでも入っていたのか?ってくらい。
そしてシトロエン・エグザンティア。
当時は何せ、人とは被らない車選びを楽しんでいた。
おかげでお金は貯まらなかった(笑)。
エグザンティアを選んだのも、単純に車が好きだったからだと思う。
そしてたぶん、そんな車選びをした自分のセンスの良さを、周りにも分かって欲しかったんだと思う。
「どうだ、俺の選んだ車は」
と。
しかし、世の中はそんなに甘くない。
誰も褒めてなどくれなかった(笑)。
じゃじゃ馬だったエグザンティア
俺が乗っていたエグザンティアは確か1994年式だったと思う。
細かい仕様は全く覚えていない。
何せ20年以上も前の話である。
色は濃紺だったかと。
エアコンは効かない(というか効きが悪い)。
4速ATだったが、確か4速に入るのは時速70kmを超えてから。
下道をトロトロ走ると3速で走ることになり燃費も落ちる。
日本の道路事情にはあまり合っていなかったように思う。
それでもエグザンティアは良い車だった。
何と言っても、ハイドロニューマチックサスペンション。
駐車していると車高がベタッと下がる。
そしてエンジンをかけると、リアが先にスッと上がる。
リアが上がり切ると、今度はフロントが上がり始める。
始めてみたときは、「おぉ、すごい車だな〜」と思ったものだ。
人とは違う車に乗っているという満足感もあった。
ただし、前向き駐車には注意が必要だった。
フロントに車止めがある状態で、車止めギリギリまで寄せてはいけない。
エンジンをかけると、まずリアが持ち上がる。
すると車体が前下がりになりフロントが車止めに近づいていく。
そして、
ガリっ。
うっかりすると、エンジンをかけただけでフロントをやっつける。
普通の車では考えなくてもいい心配をしなければならなかった。
それでも高速道路に乗ると、これがまた快適だった。
フランス車全般に言えることなのかもしれないが、長距離を淡々と走るのは本当に気持ちが良かった。
乗り心地も良かった。
すごい車だったと今でも思う。
ただ、トラブルに関してはじゃじゃ馬だった。
そして、事故に遭った
そんなエグザンティアとの生活は、そう長くは続かなかった。
ある夜、深夜のバイトに向かっていた。
俺の走る車線側の路肩に自損事故で横転した車が止まっていた。
その車は黒だった。
そして、俺に見えていたのは横転した車の真っ黒な屋根だった。
無灯火の黒い車が、真夜中の道路脇で俺に屋根を向けて横たわっている。
見えないっつーの!
ほぼノーブレーキでエグザンティアの左前方が接触。
結果、お互い廃車。
ただの自損事故を俺がさらに広げてしまったようなものである。
その後、駆けつけた警察官が俺の地元の知り合いのオッサン。
俺の顔を見るなり、
「何やってんだ、バカ!」
「早くまともに就職しろ!」
「なんなら警察になれ!」
とまくし立てる。
いやいや。
今はさっさと事故処理をして、早く帰らせてくれよ(笑)。
当時は本当に大変だった。
今のようにスマホもない。
事故現場の写真も残っていない。
クラウドなんてものもない。
どこかの記憶媒体に写真が残っている可能性はあるが、何に保存したのかすら覚えていない。
1枚くらいガラケーで撮ったような気もするが。
なので、今回の記事の事故現場はトミカで再現することにした(笑)。

実際は周りに何もない田んぼの中を突っ切る広域農道なので深夜は真っ暗。
黒い車が自損事故で横倒しになっていて、俺に見えていたのは車の屋根。
というか見えずに突っ込んだけどね。
なぜか無灯火だったし、そりゃ見えねえよ(笑)。
車はなくなった。でもローンは残った。
事故後、エグザンティアはレッカーで家の近所にある身内の鈑金屋へ運んでもらった。
我が家に不動車を置いておけるスペースなどない。
廃車にするにも、鈑金屋なら何かと都合がいいだろうと思った。
親から連絡してもらった。
ところが、その身内から早々に、
「いつまで置いておくんだ」
と苦情が入った。
これにはまいった。
そして俺は学んだ。
身内だから頼りやすいとは限らない。
むしろ、身内だからこそ言いにくいこともある。
作業に不満があっても言いにくい。
苦情一つ言うのも気を遣う。
それ以来、車の修理やメンテナンスは、むしろ他人の方が気楽だと思うようになった。
特別親しくしてくれる身内なら話は別である。
でも、そうでもないなら、車のことは他人に任せたほうがいい。
何かあったとき、言いたいことをきちんと言える相手の方が付き合いやすいからだ。
だから今の俺は、新車でも中古車でも基本的にディーラーで買いたいと思っている。
そして何より辛かったのは、車がなくなったことだけではない。
車は廃車になった。
しかしローンは残った。
これがキツかった。
エグザンティアの次にトヨタ・カリーナ
当時の俺は就職氷河期に社会人となり、就職にも恵まれなかった。
食いつなぐだめに夜間バイトもしていた。
明日も無事に過ごせるか分からない。
そんな時期だった。
そこに事故。
車はなくなり、ローンだけが残った。
今思えば、かなり高い授業料だったと思う。
その後、仲間の親父さんが経営する整備工場から、トヨタ・カリーナの中古車を25万円くらいで譲ってもらった。
エグザンティアからカリーナ。
急にめちゃくちゃ地味になった。
仲間の親父に「何でもいいから足が必要ならこれに乗っておけ」って感じで買ったカリーナ。
丸みを帯びたデザイン、ゴールド系のおじさん臭漂うカラー。
(興味があったら調べてみて。190系カリーナを)
でもこのカリーナが意外と良かった
5ナンバーサイズでも大人4人がちゃんと乗れる。
燃費もいい(確か18km/Lくらい走った)。
ガソリン満タンで800km近く走る。
オートエアコンは快適。
ダサかった。
でも実用的。
何度見てもダサい。
でも便利。
そして何より壊れない。
俺はこのカリーナに乗って、初めて気づいたのかもしれない。
俺って実は安い実用車が好きなんだ、と。
車は実用品、趣味はバイクでいい
今の俺は、車に求めるものがかなりはっきりしている。
特に雪国では車は趣味の道具というより実用品である。
冬の朝、ちゃんと出勤できる。
仕事が終わったら、ちゃんと家に帰れる。
吹雪の夜に、つまらない故障で自走不能にならない。
それが大事なのだ。
高級な車を否定するつもりはない(そもそも買えないが)。
2ドアクーペだって美しいとは思う。
でも乗り降りが面倒そうだな、と先に考えてしまう。
ローンを組んで買うなら、払う金額に見合った利便性を享受したい。
だから俺は、趣味性を求めるならバイクでいいと思っている。
車は実用品。
趣味の道具とはまた別である(田舎ではね)。
今の俺なら、老後の車選びは冬以外やちょっとした遠出はマークX。
普段乗りはアクティ(ホンダ)か軽バン。
そんな組み合わせが理想的。
走りの良い車もいい。
でも走って終わりじゃない。
俺の場合、車には実用性も必要なのである。
それでもエグザンティアは好きだった
今からエグザンティアを買うかと聞かれたら、たぶん買わない。
いや、買えない(笑)。
でも、それはエグザンティアが嫌いだからではない。
俺は今でもエグザンティアが好きだ。
乗り心地はよかった。
高速道路も快適だった。
ハイドロニューマチックは個性的だった。
駐車場でベタベタに車高が落ちて、エンジンをかけると車体が持ち上がっていく。
そんな車、他にはない。
ただ、俺にはあのじゃじゃ馬を手懐けるだけの懐がなかった。
いや、正確には財布が周回遅れですらあった。
でも、あの頃の俺は若かった。
人とは違う車を選びたかった。
エグザンティアが好きだった。
そして自分のセンスを周りに認めてもらいたかった。
(でも誰も褒めてくれなかった)
若さゆえの見栄もあった。
若さゆえの冒険もあった。
そして、若さゆえの過ちもあっただろう。
でも俺は思う。
人生において、若さゆえの過ちは、ある程度必要なのではないか。
何一つ冒険してこなかった人間が、人生のここ一番で踏ん張れるのか。
俺には分からない。
ただ、俺自身は若い頃にそれなりに無茶をした。
就職にもあぶれた。
夜間バイトで食いつないだ。
身の丈に合わない車をローンで買った。
事故も起こした。
ローンも残った。
身内に頼って嫌な思いもした。
当時は本当に大変だった。
でも20年以上経った今では、こうして笑って話せる。
そしてあの頃の自分を振り返って思う。
よく頑張ったな、俺。
エグザンティアに乗っていたのは、1年にも満たなかったと思う。
それでも、あの車に乗っていた頃のことは妙に覚えている。
たぶん、あの時代がそれだけ濃かったからだろう。
エグザンティアは俺にとって「失敗した車」ではない。
若かった俺が、若かったからこそ選んだ車である。
今の俺なら、きっと買わない。
でも、あの頃の俺がエグザンティアを選んだことを後悔しているわけでもない。
あの車に乗った短い時間。
事故に遭ったこと。
ローンだけが残ったこと。
その後に乗ったカリーナ。
そこから変わっていった車への価値観。
全部ひっくるめて、今となっては俺の人生の一部である。
もし機会があれば、完璧に整備されたエグザンティアに、もう一度乗ってみたい。
今の俺なら、あの車の良さをもっと分かってやれるかもしれない。
ただし。
所有はしない(笑)。